王銘琬コラム
純碁のすすめ【前編】 10分で碁が打てる
文・王銘琬(日本棋院棋士・九段)
「囲碁は驚くほど簡単だった」。これは大げさな言葉ではありません。囲碁は、何も知らないところからルールを覚え、そして一局を打ち、本人が碁を打てると自覚するまでわずか10分しかかかりません。「純碁」ではそれが可能です。私はこの1年で、90歳のおばさまや視力障害の方などいろいろな方約千人に教えました。そのすべての方がその場で「自分は碁が打てる」と言えるようになりました。そして“自分でも碁が打てるんだ”と知った人々の笑顔に触れて、大きな手応えを感じています。
純碁とは何か?
「純碁」はもちろん囲碁と同じものですが、最後の計算をするところだけを、誰でも簡単に理解できるよう「盤に置いた石の多い方が勝ち」に変えたものです。
これは、古くから戦前まで、この日本の地方で実際に使われていた考え方なので、中国ルールとは関係ありません。「石が多い方が勝ち」と「地が多い方が勝ち」は、同じことなのです。
いままで「囲碁は難しいもの」と誤解されてきたのには、「地が分からない」というのが一番大きな原因でした。「地」ではなく「石」の多少を勝敗の基準に変えるだけで、囲碁は途端に簡単なものに変わります。
まず、「純碁」では最初7路盤を使います(もちろん9路でも構いません)。教えることは、以下の5つだけ。
1、交点に順番に打つ
2、囲んだら取れる
3、これ以上打つところがない(得点を増やせない)と思ったらパスできる
4、相手がパスしても、自分は打てるが、両方パスなら終局
5、それぞれ盤上にある自分の石を数え、多い方が勝ち
以上です。
入門者にとって覚えなければならないものは、実質的に「石を取るルール」しかありません。それでも結構大変なので、「コウ」にはとりあえず触れず、聞かれた時にだけ教えます。こうすれば、どなたでもすぐさま対局を楽しめます。
終局を簡単に認識
1図、私は、入門者と対局するときは二子局で打つことにしています。
白29で「地の碁」なら終局。ですが、初めての方にはなぜ白29で「終わり」なのか分かりません。
2図、純碁は「盤上の石が多い方が勝ち」なので、打つと1目になります
白16まで最大限得点を伸ばし、白18はパスになります。黒は19のあと、さらにAと一目増やせますが、勝っていると判断し、終局にしました。互いに石を数え黒25目、白19目、黒6目勝ちになりました。
自分の得点が自分の着手として盤上にあるので、勝利を「自分で確認出来、そして納得する」ことができます。また、終局で二眼の形が自然と出来ますので、同時に「生き」を覚えることが出来ます。教える側は勝とうとしてはいけません。考えさせながら終局まで導くことです。
純碁の無料アプリもあるので、教室の後にはAIと対局することも出来ますし、実際すぐに家族や友人に教える方も多くいらっしゃいました。覚えた方からは、必ずと言っていいほど「囲碁は将棋や麻雀と比べ物にならないぐらい覚えやすいものだった」との反響があります。これはとても大きい意味を持っています。来週はその辺りについて紹介したいと思います。
→ 【後編】はこちら